全国で34病院を運営する国家公務員共済組合連合会は、所属する病院の共済医学会共同事業としてシミュレーション・ラボセンターを虎の門病院分院(川崎市高津区)に設立、4月1日から運用を開始した。医療の質と安全の向上を目的にしたもので、指導員が常駐する医療安全のための研修センターは大学病院以外では初めてのケースとなる。関連病院はもとより、他系列病院や地域住民を含めた幅広い活用が期待される。
医療従事者研修のほか、地域住民など一般も受け入れ
シミュレーション・ラボセンターでは、常駐するラボマネジャーが中心になって研修指導者と共に、新人の研修医や看護師、その他コメディカルスタッフに対する標準化された初歩的医療技術のシミュレーター(模型人形)による多彩な研修を中心に行うほか、すべての医療従事者への危険性の回避のための、救命蘇生法研修や新しい技術の研修を行う。さらに指導者やリスクマネジャーの研修も行う。
また、患者さんや地域住民、学生など医療関係者以外の人達も心臓マッサージ、AED(自動体外式除細動器)の使用法などの一次救急研修として開放される。つまり地域密着型病院として、国家公務員共済組合の職員はもちろん、連合会以外の医療従事者、近隣医師会会員やそのスタッフ、それに一般人まで幅広く受け入れることが大きな特徴だ。
座学では学べない手技を実地に研修
センター長の中西成元氏(虎の門病院副院長)は、「医療安全対策についてはグループ病院でも力を入れて取り組んできましたが、そうしたシステム上の対策を講じても最終的に行き着くところは、技術的な手技の部分です。教科書を使った座学では技術を修得することはできません。いずれにせよ患者さんにお願いして1歩1歩技術を高める以外にないのです。しかし、その前にシミュレータによる研修をすることが必要と考えていました」と語る。
例えば、中心静脈カテーテルの挿入などは病院では年間4000から5000例も行われる日常業務だが、患者によって血管の位置が異なることが多い。ちょっとしたミスで大きな危険を伴う可能性のある人工呼吸器や自動注入器、モニター等の使用法も、座学でどんなに学んでも事故をゼロにするのは難しいのが実情だ。また、内視鏡手術や消化管内視鏡検査・処置、人工呼吸管理、循環器トレーニングなどの新しい技術を修得することも必要になる。そこにシミュレーション・ラボセンター開設の意義がある。
常駐するラボマネジャーは臨床工学士の資格を持つ大森正樹氏と看護師の荒井直美氏の2人。
シミュレーターによる主な研修内容は、(1)一次救急処置 (2)AED(自動体外式除細動器)使用法 (3)二次救命処置 (4)気道管理・気管挿管 (5)呼吸・循環トレーニング (6)静脈注射・採血 (7)CVカテーテル挿入法 (8)縫合・消毒法・包帯法 (9)心電図検査 (10)超音波検査 (11)腰椎穿刺 (12)腹部内視鏡トレーニングBOX (13)e-ラーニング―など広範囲の実地トレーニングが可能になっている。
また、随時開催される研修としては、一次救急処置・AED講習会、静脈注射・気管挿管、縫合、心電図などがあり、学会認定コースを含む定期講習会では、一次救急処置コース、二次救命処置コース、1年目研修医コース、2年目研修医コース、人工呼吸管理講習会、リスクマネジャー講習会などが予定されている。そのほか特殊なケースや高度な内容については、その都度その分野のスキルを持った専門家に依頼することも考えているという。
中西センター長は、心臓マッサージや自動体外式除細動器などの使用法は「広く一般の人達にも広めたい」という。除細動器自体は広まっているものの、使える人が少ないからだ。一般への告知については、町内会や近隣の学校での案内などのほか、ホームページや医師会、消防、自治体との協力などが考えられている。
6日には40人の研修医が研修に参加
開設したばかりのシミュレーション・ラボセンターだが、6日からは早速、今年度卒業したばかりの研修医に研修を行った。虎の門病院のほか、共済組合連合会の関連病院から40人を受け入れ、各病院から集まった指導者により、安全管理の講義や、器材を使ったトレーニングに取り組んだ。40人を一同に集めての研修ではあったが、まずは順調なスタートとなった。
構想から2年、活用法のアイディアも広がる
中西センター長がシミュレーション・ラボセンターを構想したのは2年前から。ただ、具体化となると資金と施設の問題がある。そこで、連合会病院で構成する学会組織である共済医学会(会長:秋山洋虎の門病院顧問)の新規事業として位置づけることで合意にこぎ着けた。当面、関東地域の連合会病院(10病院)と参加を希望した連合会病院(4病院)による共同運営とすることになった。また、施設は虎の門病院分院の旧病棟に設置することになった。旧病棟は医局や部長室があるが、多くは倉庫代わりに使われていただけで、改装工事を施し、ラボセンターとして生まれ変わったわけである。改装費用や器材の確保で「数千万円かかった」(中西氏)。中には診療現場で使われなくなっていた器具の提供を受けるなど他施設の協力もあったようだ。
こうしたシミュレーション・ラボセンターを備えているのは他では慶応大学病院のみ。もちろん大学病院以外では虎の門病院分院が初めてとなる。4月から常駐する大森氏、荒井氏の両ラボマネジャーも「大いに張り切っている」(中西氏)。同所での研修が本格化していくに従って、「いろいろな活用のアイディアが生まれてくるはず」(中西氏)と夢が広がる。
運営参加病院
斗南病院、東北公済病院、立川病院、九段坂病院、虎の門病院、三宿病院、名城病院、東京共済病院、横須賀共済病院、横須賀北部病院、横浜南共済病院、横浜栄共済病院、平塚共済病院、呉共済病院
センターに備えられた器材一覧
器具総合シミュレーターシムマン、ハートシムACLSトレーニング、除細動器(ペーシング付き)、レサシアン・モジュラーシステム、ベビーアン、リトルジュニア、AEDトレーナー、マイクロシム・インホスピタル版、気道管理トレーナー、中心静脈カテーテルシミュレーター、縫合シミュレーター、腰椎穿刺シミュレーター、胸椎穿刺シミュレーター、腹腔鏡トレーニングBOX、ナーシングアイ・モジュール、上部消化管ERCP研修モデル、気管支鏡シミュレーター
消化管内視鏡のシミュレーター
人工心肺のシミュレーター
中西センター長とラボマネジャーの大森氏(左)と荒井氏