文部科学省の外郭団体・財団法人日本科学技術連盟(日科技連)が設立した「医療の質奨励賞」の第1回受賞に、済生会横浜市南部病院(横浜市港南区、500床)が選ばれた。産業界「デミング賞」の病院版奨励賞という位置づけだ。安全な医療提供に向けた組織的な取り組み、また地域医療支援の充実などが高く評価された。
質向上へ、病院"組織"の取り組みを評価
医療の質奨励賞は、診療の質、業務の質、社会的活動の質の向上に向け、組織が一体となった活動を計画的かつ継続的に行い、成果をあげている病院を対象にした賞だ。医師個人の手術件数や最新技術が評価されがちな一般の病院ランキングとは異なり、コメディカル部門や管理部門、病院の財務状況を含め、医療サービスを提供する組織として質管理にどう取り組んでいるかを評価する。
モデルとなったのは、同連盟が1950年から運営しているデミング賞だ。米国の故W.E.Deming博士の寄付を機に立ち上がった賞で、製品品質管理の仕組みを評価し、効果的な品質マネジメントを行っている企業やグループ、個人に贈られる。
同連盟が行うクオリティマネジメントに関する講座に医療関係者も参加していることから、「医療界にも質管理を評価する制度はないか」との声が寄せられ、創設された。
審査は、分野の異なる専門家31人で委員会を組織(委員長=黒川清・日本学術会議議長)。約半年をかけて書類審査と訪問審査を行う。審査項目は大きく「一般基礎項目」と「個別重点項目」に分かれる。一般基礎項目では(1)トップ(病院長)のリーダーシップ(2)日常管理と標準化(3)質向上への取り組み─という品質管理の基礎になる3点を審査する。
個別重点項目は自由選択で、病院の特長をアピールする場。新しいサービスの提供やITの活用、人材の育成などいくつ挙げてもよい。これらの項目を、計画性を持って実行し、平均在院日数の短縮やインシデント・アクシデント分析、薬剤の在庫管理といった"成果"につなげているかを審査する。審査員がつけた評価の中間点を平均して70点以上とれた病院を「合格」とする仕組みだ。
一般と個別の両方で70点以上が取れれば奨励賞授与となるが、第1回の今回は、これをクリアできたのは南部病院だけだった。応募総数は公表されていないが、応募に関する問い合わせは120件程度あったという。
同連盟事業部クオリティマネジメント課の北崎洋司課長は「品質管理という視点に立てば、ばらつきや偶然性は評価されない。すべて70点でも合格だが、ほとんど100点でも1つ50点があればダメですよ、という考え方」と説明する。
目に見える目標で"全員参加"の機運盛り上げる
受賞第1号となった横浜市南部病院は、一般基礎項目にある「日常管理と標準化」、そして地域医療支援病院として地域のニーズに応える取り組み、その成果が紹介率・逆紹介率の高さ、平均在院日数の短縮、苦情件数の減少などに現れている点が高く評価された。
日常管理では院長方針の下、全職員が「患者に安全な医療提供」の共通目標に向かって、マニュアル作成や研修会開催などそれぞれの課題に取り組んでいく仕組みが評価された(図表1参照)。
とはいえ、ただ計画を実行するだけでは、中身が伴うかまでは保証されない。そこで"全員参加"の機運を盛り上げるため利用したのが、03年の地域医療支援病院の指定獲得、また04年の(財)日本医療機能評価機構の認定獲得だった。
今回の医療の質奨励賞応募も、05年用のモチベーションアップのきっかけに、という意味合いだったという。今後も業績評価システムや個人評価制度の導入、医療機能評価の再審査―と"目に見える"年次目標が用意されている。
こうした課題の下、実現した取り組みは多い。クリニカルパスの全科導入、地域医療連携室の設置、日勤帯救急患者診察場所の分離、セカンドオピニオン外来設置、大学との連携強化―はそうした取り組みの一部だ。
取り組みの成果は数字に如実に現れている。04年度の病床利用率は91.4%(平均在院日数13.5日)、紹介率66.9%、逆紹介率43.0%。相当高い数字だ。地域連携強化のためほかの医療機関にも開放している各種講習会や研修会への参加者数は、02年の87人から04年には540人に増加。かつて赤字ぎみだった財務状況も、04年には開業以来最高益をたたき出した。
医療安全対策についても2003年度以降取り組みを強化。事故の内容をはっきりさせ、情報を共有化するために、インシデントレポートを院内LANで電子報告するようにした。リスクマネジャーや部署責任者、医療安全管理委員会などへの従来型の報告も同時に進め、対策を検討した結果は各部署にフィードバックされる流れを確立した。インシデント報告件数は2002年の938件から04年には1,566件に増加している。
そうした結果の一つとして得られたのが患者満足度調査の結果だ(図表2参照)。院内の医療の質向上委員会が毎年実施している患者アンケートの結果で、診察や薬、検査の待ち時間に関して「不満」が減少、「満足」が上がった。
「質向上」は継続への挑戦
産業の品質管理の感覚で、患者安全を第一に考える医療の質を測ることはできないが、質の向上に取り組む姿勢は同じように評価できるのではないか、というのが同賞の考え方だ。
「たとえば管理面でコストダウンができれば、浮いた分を医師・看護師の充実やIT化といった診療の質向上に生かせるし、接遇が改善されれば病院の評価が上がって患者さんが増える。こういう風に、医療の質向上に取り組んで欲しいというメッセージ。その延長線として、この賞受審を利用してもらえれば」と北崎課長。
質の向上は組織全体として取り組まなければ為し得ないし、努力を継続しなければ低下してしまう。同院総務課の小暮慶和課長は「今までの積み重ねが評価されたが、医療の質奨励賞を取ったからこれで終わりというタイプの賞ではない。そのことをどう院内に浸透させ、今後にどうつなげるかが課題だ。むしろこれからもがんばろうや、というものと受け止めている」と話している。