医療判決紹介:最新記事

2024年の記事一覧

2024年11月 8日
選択のポイント【No.514、515】

今回は、手術のリスクへの対応に関する医師の過失(注意義務違反)が認められた裁判例を2件ご紹介します。 No.514の事案では、裁判所は、手術において、最低限どのような血圧目標値を設定すれば、患者の脳梗塞の拡大、悪化を防ぐことができたかについてはこれを具体的に確定することのできる資料はないと指摘しなが...

2024年11月 8日
No.515「頸椎症性脊髄症に対する椎弓形成術を受けた後に患者の視力及び視野機能が低下。術後合併症予防措置を講じなかった医師の過失を認めた地裁判決」

東京地方裁判所令和5年3月23日判決 医療判例解説109号(2024年4月号)11頁 (争点) 医師に術後合併症予防義務違反があったか否か *以下、原告を◇、被告を△1ないし△3と表記する。 (事案) ◇(平成27年5月当時58歳の男性・会社勤務の税理士)は、平成26年8月から腰痛により医療法人社団...

2024年11月 8日
No.514「もやもや病に対する間接吻合法による血行再建術を受けた患者に右半身麻痺、失語症等の後遺障害が残る。手術を担当した医師らに血圧管理上の注意義務違反を認めて、病院側に損害賠償を命じた高裁判決」

大阪高等裁判所令和4年10月27日判決 医療判例解説106号(2023年10月号)129頁 (争点) 医師に血圧管理上の注意義務違反があったか否か *以下、原告を◇、被告を△と表記する。 (事案) ◇(昭和45年生まれの男性・団体職員・症状固定日当時40歳)は、平成18年頃から、時々、右視野の欠損症...

2024年10月10日
選択のポイント【No.512、513】

今回は、気管挿管に関連して医師の過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。 No.512の紹介にあたっては、一審(平成28年3月29日神戸地裁判決・出典ウエストロー・ジャパン)も参考にしました。 No.512の事案では、因果関係も争点となり、病院側は医師の善管注意義務違反と患者の重篤な後遺障害の発生...

2024年10月10日
No.513「手術後、再挿管時の気管チューブが食道に入った患者が挿管遷延性意識障害に陥り、その後死亡。医師らに再挿管後の確認義務違反を認め、遷延性意識障害に陥らなかった相当程度の可能性を侵害された慰謝料の支払を命じた高裁判決」

東京高等裁判所令和4年3月22日判決 判例時報2568号48頁 (争点) 医師に過失(再挿管後の確認義務)があったか否か 過失と本件遷延性意識障害との間の相当因果関係の有無 *以下、原告を◇、被告を△と表記する。 (事案) 平成22年11月30日、A(手術当時34歳の女性・会社勤務)は、一般財団法人...

2024年10月10日
No.512「約107時間の気管挿管の後に、医師が挿管チューブを抜管し、患者が喉頭浮腫による上気道閉塞・心停止から低酸素脳症となり、重篤な後遺障害が残存。医師に気道緊急に備えて準備すべき義務違反を認めた高裁判決」

大阪高等裁判所平成28年11月11日判決 ウエストロー・ジャパン (争点) 医師に善管注意義務があったか否か *以下、原告(被控訴人・附帯控訴人)を◇、被告(控訴人)を△と表記する。 (事案) ◇(昭和48年生まれ、本件事故当時34歳の女性。パート労働をしながら家事も行い、事故当時7歳と12歳の息子...

2024年9月10日
選択のポイント【No.510、511】

今回は、出生後間もない患児への対応に関して病院側に損害賠償が認められた裁判例を2件ご紹介します。 No.510の事案では、医師の過失が認められましたが、他方で、裁判所は、もともと新生児の敗血症や髄膜炎の予後は著しく不良であるうえ、原告患者の場合にはこれに脳膿瘍や脊髄炎を合併するという通常とは異なる経...

2024年9月10日
No.511「吸引分娩から約12時間後に新生児が死亡。助産師が医師に顔面チアノーゼ等の適切な報告を怠ったとして、病院側に損害賠償を命じた地裁判決」

大阪地裁令和5年1月24日判決 医療判例解説106号(2023年10月号)81頁 (争点) 11月21日午前0時25分頃の時点で、助産師が医師に、顔面チアノーゼ、全身色不良、うなり呼吸を報告すべきであったか *以下、原告を◇1及び◇2、被告を△と表記する。 (事案) ◇1は、不妊治療を経て平成29年...

2024年9月10日
No.510「出生した児に脳脊髄膜炎、脊髄炎による後遺症が生じ、医師が敗血症、髄膜炎を疑って、検査・治療を開始すべき義務あるいは専門施設に転院すべき義務に違反したと判断した地裁判決」

横浜地方裁判所平成2年4月25日判決 判例タイムズ739号156頁 (争点) 医師に注意義務違反があったか否か *以下、原告を◇1ないし◇3、被告を△と表記する。 (事案) ◇1(出産時35歳の女性)は、これまで妊娠の経験がなかったところ、昭和55年8月6日、自宅近くのN産婦人科医院で妊娠の診断を受...

2024年8月 9日
選択のポイント【No.508、509】

今回は同一患者に対して複数回実施された手術に関して医師の過失(注意義務違反)が認められた裁判例を2件ご紹介します。 No.508の事案では、医師の過失と患者の死亡との因果関係も争点となりました。 裁判所は、第一次手術後に本件穿孔が発生しなければ腸内容物の漏出に伴う細菌の腹腔内への侵入による汎発性腹膜...

2024年8月 9日
No.509「腰椎椎間板損傷の治療のため3度の手術をした患者が下半身不随に。医師に2度目、3度目の神経剥離術における過失や説明義務違反等が認められた地裁判決」

東京地方裁判所平成6年12月21日 判例タイムズ895号222頁 (争点) 第2回手術及び第3回手術における医師の過失の有無 説明義務違反の有無 *以下、原告を◇、被告を△1および△2と表記する。 (事案) 昭和57年10月21日、◇(当時34歳の男性・クリーニング店勤務)は、勤務先のクリーニング店...

2024年8月 9日
No.508「一度目の手術後に腸の穿孔が発生し、二度目の手術の後、複合臓器不全により患者が死亡。手技上の過誤により穿孔を発生させた医師が、この過誤に起因する症状に対する最善の治療に努める注意義務に違反したと判断した地裁判決」

東京地方裁判所 平成元年11月13日判決 判例タイムズ726号198頁 (争点) 第一次手術の手技の過誤があるか否か 第二次手術方法の選択の過誤があるか否か *以下、原告を◇1および◇2、被告を△1および△2と表記する。 (事案) A(死亡当時34歳の男性・2つの会社の取締役)は、昭和55年10月1...

2024年7月10日
選択のポイント【No.506、507】

今回は施設入居中の高齢者への対応に関し、医師の過失(注意義務)が認定された裁判例を2件ご紹介いたします。 No.506の事案では、原告側は、看護師及び医師の、吐物の吸引や救命行為の過失も主張しました。しかし、裁判所は、看護師が吐物の吸引を行った際の患者の姿勢について、看護師の証言に反する客観的な証拠...

2024年7月10日
No.507「特別養護老人ホームの入所者が、容態急変後に死亡。遺族の請求を全部棄却した一審判決を取り消して、適切な医療処置を行うべき義務違反があったとして、慰謝料請求を認めた高裁判決」

東京高等裁判所令和2年8月19日判決 判例時報2472号18頁 (争点) 医師に適切な医療処置を施すべき義務違反があったか否か *以下、原告を◇1ないし◇4、被告を△1および△2と表記する。 (事案) 平成27年12月28日、A(大正10年生まれ。死亡時94歳の女性)は、社会福祉法人であるIが経営す...

2024年7月10日
No.506「介護老人施設の入所者が誤嚥により死亡。施設の医師に麻痺性イレウスを疑って転院させるべき注意義務の違反を認め、死亡を避けられた相当程度の可能性を侵害したことによる慰謝料の支払いを施設経営者に命じた地裁判決」

釧路地方裁判所帯広支部 令和4年3月30日 ウェストロージャパン (争点) Bの死亡に至る機序(イレウスにより死亡したか) イレウスを前提とする過失の有無 イレウスを前提とする結果回避可能性の有無 *以下、原告を◇、被告を△と表記する。 (事案) 平成28年4月5日(以下、特段の断りのない限り同年の...

2024年6月10日
選択のポイント【No.504、505】

今回は、新生児の脳性麻痺につき、医師の責任が認められた地裁判決を2件ご紹介します。 No.504の事案では、被告の医師は、△は、新生児の脳性麻痺は、出生時に既に存した先天的疾患によると主張しました。 しかし、裁判所は、事実経過によれば、新生児は、吸引分娩で出生したものの、外見上異常はなく、出生体重も...

2024年6月10日
No.505「核黄疸により新生児が脳性麻痺に陥ったのは、医師が血清ビリルビン値の計測および交換輸血を怠ったためであるとして医師の注意義務違反を認めた事案」

東京地方裁判所八王子支部 平成6年11月15日判決 判例タイムズ892号226頁 (争点) 新生児が核黄疸であったか否か 新生児が核黄疸に罹患したことにつき医師に注意義務違反があったか否か *以下、原告を◇1ないし◇3、被告を△と表記する。 (事案) ◇2(女性・初産婦)は、昭和62年11月8日、分...

2024年6月10日
No.504「新生児が脳性麻痺に至ったのは、医師が、脱水症状及び低血糖症に対し電解質を含まない過剰輸液を行ったためであるとし、医師に損害賠償が命じられた地裁判決」

前橋地方裁判所平成元年12月19日判決 判例時報1357号115頁 (争点) 医師に新生児低血糖症及び脱水症状に対して適切な処置を施す義務違反があったか否か *以下、原告を◇1ないし◇3、被告を△と表記する。 (事案) ◇2は、昭和58年7月13日、産婦人科医である△医師の経営する医院(以下、「△医...

2024年5月10日
選択のポイント【No.502、503】

今回は、骨折の治療に関して医師の責任が認められた判決を2件ご紹介します。 No.502の事案では、医師は、阻血回避処置のうち、固定の中止や筋膜切開については、固定を続けた場合に比べて骨の癒合が悪くなるから、フォルクマン拘縮症以外の可能性がある場合には、軽々に固定をやめ筋膜切開に踏み切るべきではないと...

2024年5月10日
No.503「交通事故での大腿骨粉砕骨折等を負った患者がその後大腿骨骨髄炎に罹患し、大腿部切断。細菌検査義務違反があったとして医師の過失を認めた高裁判決」

名古屋高等裁判所平成2年7月25日判決 判例時報1376号69頁 (争点) 医師に細菌検査義務違反があったか否か *以下、原告を◇、被告を△1および△2または合わせて△と表記する。 (事案) 昭和49年10月30日、Aは交通事故に遭遇し(加害車両運行供用者は株式会社である◇)、△1医師の経営する病院...

2024年5月10日
No.502「5歳児が左腕を骨折し、阻血からフォルクマン拘縮症を発症。経過観察を怠り、必要な回避措置を取らなかった医師の債務不履行を認め、患者の請求を全額認容した地裁判決」

東京地方裁判所 平成元年11月28日判決 判例タイムズ722号264頁 (争点) 医師に、フォルクマン拘縮症回避のための処置をとる医療契約上の義務違反があったか否か *以下、原告を◇、被告を△と表記する。 (事案) ◇(昭和47年生まれで事故当時5歳の男児)は、昭和53年(特段の事情のない限り同年の...

2024年4月10日
選択のポイント【No.500、501】

今回は、薬剤の投与に関する医師の注意義務違反(過失)が認められた裁判例を2件ご紹介します。 No.500の事案では、病院側は、処方を行わなかったことにつき、十二指腸潰瘍に対する間歇療法(再発の都度、初期療法を繰り返す)に合致するものであるから、過失とならないと主張しました。 しかし、裁判所は、本件事...

2024年4月10日
No.501「ワーファリンを継続使用していた慢性心房細動の患者に対し、医師がイグザレルトへの切り替えに伴うワーファリンの休薬を指示した後、患者が心原性脳塞栓症を発症して死亡。医師に薬剤投与に関する注意義務違反が認められた事案」

東京地方裁判所令和5年9月29日 判例タイムズ1514号 185頁 (争点) 医師に薬剤投与に関する注意義務違反があったか否か 医師の注意義務違反と原告らの損害との因果関係 *以下、原告を◇1ないし◇3、被告を△と表記する。 (事案) A(昭和11年10月生まれの男性)は、従前、高血圧症、心房細動の...

2024年4月10日
No.500「十二指腸潰瘍が悪化し穿孔が生じて患者が死亡。抗潰瘍薬を処方漏れした医師の過失が認められた地裁判決」

静岡地方裁判所浜松支部平成22年2月22日判決 ウェストロージャパン (争点) 医師に診療上の過失があるか否か 医師の過失と結果との間の因果関係 *以下、原告を◇1ないし◇3、被告を△と表記する。 (事案) A(平成16年10月当時77歳の女性)は、昭和60年、乳がんの手術を受けた。また、そのころか...

2024年3月 8日
選択のポイント【No.498、499】

今回は、麻酔のミスについて、医師の過失が認められた事案を2件ご紹介します。 No.498の事案では、過失について病院側は争わず、損害額等が争点となりました。 そして、重度の後遺障害を負ったロシア国籍女性の将来介護費の算定にあたり、原告側は、「寿命は、生活の本拠における食料、気候、医療水準等の生活環境...

2024年3月 8日
No.499「整形外科において、患者が肩関節脱臼の整復治療にあたり局所麻酔を投与された後、低酸素脳症となり、後遺障害が残存。医師に麻酔薬の投与における過失を認めた地裁判決」

京都地方裁判所令和3年11月9日判決 ウェストロージャパン、裁判所ウェブサイト (争点) 患者が局所麻酔中毒によって呼吸停止に至ったか 医師に手技上の過失ないし義務違反があったか否か *以下、原告を◇、被告を△1および△2と表記する。 (事案) 平成28年4月15日、A(66歳の女性・家事および夫の...

2024年3月 8日
No.498「無痛分娩のための腰椎麻酔の後、母親が心肺停止状態になり、心肺停止後脳症等の障害を負い、重症新生児仮死の状態で出生した子は約6年後に死亡。麻酔薬注入時の医師の注意義務違反を認め、合計で約3億円の損害賠償を命じた地裁判決」

京都地方裁判所令和3年3月26日判決 判例時報2512号60頁 (争点) 債務不履行に基づく損害賠償請求権の帰属主体 損害額 *以下、原告を◇1ないし◇3、被告を△と表記する。 (事案) 平成24年11月5日、◇1(昭和51年生まれのロシア国籍の女性・妊娠39週0日)は、破水したことにより、△診療所...

2024年2月 9日
選択のポイント【No.496、497】

今回は、医師の説明義務違反が認められた判決を2件ご紹介いたします。 No.496の事案では、病院側は、本件手術が患者の病態に対し、唯一最後の治療方法で、速やかに行う必要性と緊急性があった旨強調しましたが、裁判所は、唯一最後の治療方法であるからといって説明義務が軽減ないし免除される理由とはなり得ないし...

2024年2月 9日
No.497「動脈瘤の疑いから術前検査として患者の同意を得た心臓カテーテル検査につき、明らかな動脈瘤がないことが判明して術前検査としては不必要になったが、医師がその説明をせず、狭心症の確定診断目的で同検査を行ったことにつき、慰謝料が認められた地裁判決」

横浜地方裁判所平成29年2月23日判決 医療判例解説70(2017年10月)号47頁 (争点) 心臓カテーテル検査に関する説明義務違反の有無 *以下、原告を◇、被告を△1ないし△4と表記する。 (事案) 平成27年12月18日(以下、特段の断りのない限り同年のこととする)、◇(本件入院時69歳の女性...

2024年2月 9日
No.496「糖尿病網膜剥離手術により患者が失明。医師の説明義務違反を認めたが、説明義務違反と失明との相当因果関係は否定し、慰謝料と弁護士費用の損害賠償を病院側に命じた地裁判決」

名古屋地方裁判所昭和59年4月25日判決 判例タイムズ540号276頁 (争点) 説明義務違反の有無 損害 *以下、原告を◇、被告を△1及び△2と表記する。 (事案) ◇(会社経営者男性。失明時54歳)は、幼児期から左眼がほとんど視力のない弱視(30ないし55センチメートル手動弁)であった。昭和38...

2024年1月10日
選択のポイント【No.494、495】

今回は、術後管理上の過失が認められた判決を2件ご紹介します。 No.494の事案では、病院側は、患者のトイレでの転倒は、患者のつまずきや、滑ったためだと主張しました。しかし、裁判所は、一般に、下血を含む出血があれば、貧血が起こり、貧血の症状として脳細胞への酸素供給が不足することや、これに体動や排便時...

2024年1月10日
No.495「脳内出血の手術を受けた患者が急性呼吸不全により死亡。鼻出血の継続による気道閉塞を予見すべきだったのに、経過観察指示しかしなかった当直医に注意義務違反を認めた地裁判決」

京都地方裁判所令和4年3月9日判決 医療判例解説105(2023年8月)号10頁 (争点) 当直医に注意義務違反があるか否か *以下、原告を◇、被告を△と表記する。 (事案) A(判決中に年齢の明記はないが、70代男性と思われる。)は、平成28年1月4日(以下、特に断りのない限り同年のこととする。)...

2024年1月10日
No.494「虫垂切除術の後、患者がトイレ内で貧血により失神して転倒し、重篤な後遺障害が残った。医師・看護師らに術後管理上の過失があったとして、病院側の責任が認められた地裁判決」

名古屋地方裁判所豊橋支部平成15年3月26日判決 判例タイムズ1188号301頁 (争点) 医師の過失の有無 看護師らの過失の有無 *以下、原告を◇、被告を△と表記する。 (事案) ◇(昭和45年生まれで、転倒事故当時26歳の女性)は、平成8年7月4日(以下、年月を記載していない日付は、平成8年7月...

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