医療判決紹介:最新記事

2007年の記事一覧

2007年12月11日
選択の視点【No.108、109】

今回は、脳の手術における医師の過失が認められた判決を2件ご紹介します。 No.108には「司法解剖」という用語が出ています。また、No.109の判決紹介にあたっては、判例タイムズの同じ号に掲載されていた、原審判決(大分地裁)も参考にしておりますが、その原審判決中に、患者Aの病理解剖がなされなかった旨...

2007年12月11日
No.109「69歳の女性が髄膜腫摘出手術中に急性硬膜下血腫が生じ、患者が死亡。閉頭操作及び頭部CT検査の実施の遅延により硬膜下血腫の除去が遅れたとして、病院側に損害賠償責任を認めた判決」

福岡高等裁判所平成18年10年26日判決 判例タイムズ1243号209頁 (争点) 本件血腫の発見が遅れたことについてH医師らに過失があるか 損害額に術後の患者の後遺障害の残存の可能性を考慮するべきか (事案) 患者A(昭和5年生まれの女性)は、平成9年頃より、年に1回程度、回転性のめまいを感じてい...

2007年12月11日
No.108「大学病院で気管切開を受けた食道癌患者が、気管切開術中に失血死。執刀医が、患者の頸動脈を誤って切断した過失があるとして大学側に損害賠償請求を認める判決」

東京地方裁判所平成18年2月23日判決(判例タイムズ1242号245頁) (争点) 患者Aの死因が気管切開術中のB執刀医の過失によるものか 患者Aの余命を何年として損害を算定するか (事案) 患者A(昭和8年生まれの男性)は、他院で食道癌と診断され、その紹介で、平成11年9月1日に学校法人Yが開設し...

2007年11月 8日
選択の視点【No.106、107】

今回は、専門科目外の医療に関する過誤について、医師側の責任を認めた判決を2件ご紹介します。 No.106の判決紹介にあたっては、一審の判決も参考にしました。 No.106では、開業医の注意義務違反による転院先での手術の遅れがなければ、患者に後遺症が生じなかったとまでは言えないが、より早期に手術を受け...

2007年11月 8日
No.107「県立の循環器呼吸器専門病院医師が、患者のC型肝炎ウイルス感染を見落とす。転院先で患者が死亡。県の債務不履行責任を認める判決」

横浜地方裁判所平成17年9月14日判決(判例時報1927号79頁) (争点) Yセンター医師らは、患者AをC型肝炎の治療に適した医療機関に転医させるべき診療契約上の義務を怠ったか 上記1の債務不履行と患者Aの死亡との間に相当因果関係はあるか (事案) 患者A(昭和16年生まれの男性)は、肺ガンが疑い...

2007年11月 8日
No.106「生後6ヶ月の男児が開業医から転院先の脳外科で開頭手術を受けたが、硬膜外血腫による後遺症が残存。開業医に転送の際の注意義務違反を認め、患者側が逆転勝訴した高裁判決」

大阪高等裁判所平成8年9月10日判決 判例タイムズ937号220頁 (争点) 専門領域外の他院に転送する際に、開業医であるY医師に注意義務違反があったか否か Y医師の過失と相当因果関係のある損害の項目 (事案) 患者Xは当時生後6ヶ月の男児で、Y医師は内科、小児科、放射線科を標榜科目とするY医院を経...

2007年10月12日
選択の視点【No.104、105】

今回は、損害賠償の額に関して、特殊事情を考慮して減額が認められた判決を2件ご紹介します。 No.104の判決に出てくる、「医療保護入院」とは精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健法)第33条に定められている精神障害者の入院形式です。精神障害者で、自傷他害のおそれはないが、医療及び保護のため...

2007年10月12日
No.105「高圧浣腸のミスから人工肛門設置。閉鎖の可能性はあるが、閉鎖手術の選択は酷であるとして、後遺障害を認定。閉鎖手術を選択しなかったことは治癒可能性の機会の放棄として損害賠償額を減額した判決」

高松高等裁判所平成19年1月18日判決 判例時報1964号90頁 (争点) 症状固定の有無 損害及びその額 (事案) 患者X(平成17年当時63歳の女性)は平成14年2月6日、Y医療法人が開設するY病院にて大腸検査のため高圧浣腸を受けたところ、看護師の手技上のミスにより直腸後壁が穿孔され、医原性大腸...

2007年10月12日
No.104「都立病院に医療保護入院中の患者が、鎮静剤投与で容態急変。蘇生後脳症により重度の後遺障害。病院側の過失を認め、損害賠償額の算定にあたっては、医療事故前の患者の症状などを考慮して逸失利益を減額した判決」

東京高等裁判所平成13年9月26日判決 判例タイムズ1138号235頁 (争点) 本件医療事故の原因 T医師の過失 損害 (事案) 患者X(昭和39年9月生まれの男性)は、平成7年2月11日深夜、自宅において、 暴言を浴びせ、物を投げつけるなどし、不穏、興奮状態が続いたため、Xの母の110番通報によ...

2007年9月10日
選択の視点【No.102、103】

今回は、術後管理について、医師の責任が認められた判決を2件紹介します。 No.102の判決では、手術中のくも膜の破損や、ラトケ嚢胞を全部摘出したこと自体の過失についても原告側は主張していましたが、裁判所はこれらの過失は否定し、ただし、合併症の危険の高い手術方法を選択したのであるから、通常以上に十分な...

2007年9月10日
No.103「冠状動脈バイパス手術を受けた患者が、術後に腸管壊死になり、死亡。医師の過失を認め、高裁判決を破棄した最高裁判所判決」

最高裁判所平成18年4月18日判決(判例タイムズ1210号67頁) (争点) 医師の過失の有無 (事案) 患者Aは、故B院長の開設していたC病院において、平成3年2月22日午前11時55分から午後6時30分まで、冠状動脈バイパス手術を受けた。執刀医は、B院長から依頼を受けたE大学教授であり、C病院の...

2007年9月10日
No.102「ラトケ嚢胞の全部摘出手術後、14歳男子が髄膜炎、気脳症の合併症で死亡。国立大学病院の責任を認めた判決」

神戸地裁平成15年6月12日(判例時報1836号105頁) (争点) 術後管理における医師の過失の有無 (事案) 患者A(死亡当時14歳)は、私立大学病院で嚢腫との診断を受け、手術方法として経蝶形骨洞到達法(ハーディ法)の説明を受けた。そして、その手術が可能な国立大学附属病院であるY病院に平成10年...

2007年8月 9日
選択の視点【No.100、101】

今回は、いわゆる胎児仮死に関する判決を2件(No.100、No.101)ご紹介します。 胎児仮死(または安心できない状態)で出生し、低酸素症から重度の後遺障害を負った事案については、いくつもの判例があり、医療訴訟にいたる類型の一つといえます。 両判決とも実務において参考になると思いますので紹介します...

2007年8月 9日
No.101「低酸素状態が続いていた胎児について、急速遂娩実施の遅れにより、重度脳障害の後遺症。医師の責任を認める判決」

平成15年7月9日富山地方裁判所判決(判例時報1850号103頁) (争点) 女児の重度脳障害の原因 Y医師の注意義務違反の有無 (事案) X2(母)は、産婦人科医であるYが開設経営していたクリニック(以下Yクリニックという)を平成6年8月8日受診し、妊娠5週間、分娩予定日が平成7年4月12日と診断...

2007年8月 9日
No.100「帝王切開出産時の低酸素症により、新生児が重症脳性麻痺に罹患し、その後11歳で死亡。産婦人科医師の過失責任を認める判決」

鹿児島地方裁判所平成15年1月20日判決(判例タイムズ1164号257頁) (争点) 産婦人科医師の注意義務違反 因果関係 損害 (事案) 患者Aの父親がX1、母親がX2である。X2は、平成3年3月30日の初診以来、約1ヶ月おきにY医師が開設するY産婦人科(Y医院)において妊娠経過の診察を受けていた...

2007年7月13日
選択の視点【No.98、99】

今回は、定期金賠償が認められた判決を2件ご紹介します。 損害賠償は、将来の損害も含めて一括払いが一般的です。これに対して定期金賠償とは、例えば「生存する限り1ヶ月ごとに30万円支払え」というように、定期的な金銭支払による賠償方法です。総額が決まっておらず、支払期ごとに発生するという点で、総額が決まっ...

2007年7月13日
No.99「急性喉頭蓋炎の患者が低酸素脳症から重度後遺症。最初に診療した個人経営の病院及び転送先の県立病院に対して、定期金賠償を含む損害賠償の支払いを命じた判決」

平成16年1月21日大阪地裁判決(判例時報1907号85頁) (争点) 最初に入院したY1病院の当直医であるK医師に経過観察義務違反があったか 転送先の医大病院のN医師による緊急気道確保のための手技に過失があったか 損害 (事案) X(当時32歳の男性)は、平成11年8月13日午後6時30分ころ、身...

2007年7月13日
No.98「女児患者が麻酔薬の過剰投与で重篤な後遺障害。病院側に将来の自宅介護の費用についてのいわゆる定期金賠償を命じる判決」

東京地方裁判所平成8年12月10日判決(判例時報1589号81頁) (争点) 患者X1及び両親に生じた損害の額 (事案) 患者X1(平成3年4月生まれの女児)は、平成5年2月4日午後8時ころ、引きつけを起こし40度の熱が出たため、最寄りのT病院を受診し、解熱剤を処方されて帰宅した。翌2月5日朝、X1...

2007年6月 5日
選択の視点【No.96、97】

今回は、入院中の患者のケアに関する判決を2件ご紹介します。 No.96の判決は、病院側の過失を認め、患者が最重症のウイルス性脳炎に罹患していたことから、過失がなくても最終的な救命は困難であったとして、死亡と過失の因果関係は認めませんでした。しかし、適切な治療を受ける期待及び延命利益の喪失が、患者自身...

2007年6月 5日
No.97「入院中の患者に床ずれ(褥瘡)が発症し、その後腎不全で死亡。病院側に損害賠償を命じる判決」

東京地方裁判所平成9年4月28日判決(判例時報1628号49頁) (争点) YがAに対し褥瘡の予防と治療について必要とされる医療処置を講じたかどうか Aの死亡と褥瘡との因果関係の有無 損害額 (事案) 患者A(昭和7年生まれの男性)は、平成4年1月5日日午前1時頃外出先で倒れ、救急車でI病院に搬送さ...

2007年6月 5日
No.96「市立病院の入院患者の気管に挿入したカニョーレが移動し、患者が死亡。市に損害賠償を命じる判決」

神戸地方裁判所平成8年3月11日判決(判例タイムズ915号232頁) (争点) 患者Aの死亡原因 カニョーレ装着後の管理上の過失の有無 損害 (事案) 患者A(昭和38年生まれの男性)は、平成2年11月30日、ウイルス性脳炎の疑いでY市立Y市民病院(以下Y病院という)に入院した。同病院内科医師T医師...

2007年5月18日
選択の視点【No.94、95】

今回は、市立病院での診療拒否に関する判決を2件ご紹介します。 なお、No.94の判決は、一審判決後、控訴審で和解が成立したとのことです。 医師法19条1項は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と規定しています。医師の応招義務を規定し...

2007年5月18日
No.95「市立病院が腰椎骨折患者につき、HIV感染者であることから手術的治療を回避。医学的根拠のない差別的取扱による慰謝料の支払いを市に命じる判決」

甲府地方裁判所平成17年7月26日判決(判例タイムズ1216号217頁) (争点) 腰椎骨折に対して手術的治療を実施しなかったという不作為と後遺障害との間に因果関係があるか 前記1の因果関係が認められない場合に、患者Aの適切な治療を受ける期待権が侵害されたか (事案) 患者Aは、1970年(昭和45...

2007年5月18日
No.94「救命救急センターである市立病院が、交通事故で重傷を負った患者の受け入れを拒否しその後患者が死亡。市に不法行為責任を認めた地裁判決」

神戸地方裁判所平成4年6月30日判決(判例時報1458号127頁) (争点) Y病院が患者Aの診療を拒否したか 診療拒否があったとして、拒否に正当事由が認められるか (事案) Y市が開設しているY病院は、救急告示病院であり、医療法31条以下に規定されている公的医療機関であり、Y市内における救命救急セ...

2007年4月 4日
選択の視点【No.92、93】

今回は手術の際に体内に針やガーゼを残置した事案を2件ご紹介します。 No.92の判決で、「開腹手術にあたる医師は患者の体内に手術に使用する器具を残置することのないよう注意を尽くすべき義務を負う」と判示されているとおり、体内への残置が注意義務違反(過失)に該当することは明らかです。No.93の判決では...

2007年4月 4日
No.93「不妊治療を受けていた患者の子宮筋腫核出術の際、患者の体内にガーゼを残置。その後も3年間不妊治療を継続していた大学病院の責任を認める判決」

東京地方裁判所平成18年9月20日判決 判例時報1952号113頁 (争点) 本件ガーゼ残置による利益侵害の内容 損害 (事案) 患者X(昭和34年生まれの既婚女性)は、平成7年9月19日から、妊娠目的で、Y学校法人が設置経営する大学病院(以下Y病院という)産婦人科への通院を開始した。その後、Xに子...

2007年4月 4日
No.92「帝王切開の際、医師が手術用の縫合針を妊婦の子宮内に残置。大学病院側の責任を認める判決」

東京地方裁判所昭和61年6月10日判決 判例時報1242号67頁 (争点) 本件伏針が、本件手術の際に残置されたものか否か 損害 (事案) 患者X1(昭和11年生まれの女性)は、昭和34年3月8日、K病院で長女を自然分娩し、昭和39年10月2日には、N病院で帝王切開により長男を出産した。 X1は昭和...

2007年3月12日
選択の視点【No.90、91】

今回は、疾患のある人が医療過誤により死亡した場合で、損害賠償の項目のうち、逸失利益が否定された判決を2件ご紹介いたします。 逸失利益とは、その人が生存していれば得たであろう利益のことを指します。 No.90の判決では、患者が肝臓病の療養に専念しており、現実に働いて収入を得る蓋然性を認めることが困難で...

2007年3月12日
No.91「横紋筋肉腫の患者への放射線治療から、患者の脳幹部に放射線障害が発症して死亡。病院の損害賠償責任を認める判決」

横浜地方裁判所平成13年10月31日判決(判例タイムズ1127号212頁) (争点) 医師の過失の有無 因果関係 損害(特に逸失利益・葬儀費用・慰謝料について) (事案) 患者A(死亡当時27歳の女性)は、Y(社会福祉法人)が解説するY病院で鼻孔ないし副鼻孔原発の横紋筋肉腫と診断された。Aの横紋筋肉...

2007年3月12日
No.90「慢性肝炎の患者が併発した食道静脈瘤破裂により死亡。医師の過失を認める判決」

福岡地方裁判所平成7年1月20日判決(判例時報1558号111頁) (争点) Y医師の注意義務違反の有無 肝臓病のため、就労していなかった患者Aについて逸失利益が認められるか否か (事案) 患者Aは、昭和55年12月、F病院において慢性肝炎の診断を受け、同月16日から昭和56年3月12日まで同病院で...

2007年2月 6日
選択の視点【No.88、89】

今回は、人間ドック検査における医師の過失について、損害賠償請求が認容された判決を2件ご紹介いたします。 人間ドック検査などの健康診断に関する訴訟では、医師の診断上の過失がなければ、患者の死を避けられたはずだというところまでの因果関係は立証が難しいため、過失と死亡との因果関係が認められることは非常に少...

2007年2月 6日
No.89「人間ドックの便潜血検査で(+)の反応が出たが、病院は再検査等の受診を促さず、その後受診者は癌で死亡。病院の損害賠償責任を認める判決」

東京地方裁判所 平4年10月26日判決(判例時報1469号98頁) (争点) 人間ドック検査における、Y病院の過失の有無 Y病院の過失とAの死亡との因果関係 (事案) 患者A(死亡当時63歳の男性)は、健康保険組合の被保険者として、Y医療法人が開設するY病院において、昭和56年11月27日、昭和57...

2007年2月 6日
No.88「人間ドック検査で癌の疑いがある病変を医師が発見しながら、告知や検査を失念し、その後患者が癌で死亡。延命利益喪失を理由とした慰謝料を患者遺族に支払うよう医師側に命じた判決」

静岡地方裁判所沼津支部 平成2年12月19日判決(判例時報1394号137頁) (争点) 人間ドック検査におけるY2医師の過失の有無 適切な癌の告知と精密検査が行われていた場合のAの延命可能性の有無 (事案) 患者A(大正12年生まれの男性。人間ドック検査時60歳。)は、昭和58年7月6日、7日の両...

2007年1月10日
選択の視点【No.86、87】

今回は、歯科医師の損害賠償責任が認められた判決を2件ご紹介いたします。 歯科医療には、一般医療と比べて、「治療に用いられる材料・材質に選択の余地がある」「保険診療の対象外の治療(自費診療)が多い」「容貌に及ぼす影響が大きい」「復元が困難・不可能な治療が多い」「緊急性に乏しい場合もある」といった特色が...

2007年1月10日
No.87「歯周病治療で歯科医師が患者の24歯全部を大幅に削合。医師の損害賠償責任を認めた判決」

山口地方裁判所平成17年12月22日判決(判例タイムズ1223号240頁) (争点) 説明義務違反の有無 治療の一環として、患者の24歯全部を大幅に削合したことが、不法行為に該当するか (事案) 患者X(昭和24年生まれの女性でブティック経営者)は、Y歯科医師が開設するY歯科医院を平成14年3月1日...

2007年1月10日
No.86「歯科医師のブリッジ(架工義歯)の支台築造に過失が認められた判決」

平成4年5月29日京都地方裁判所判決(判例時報1479号64頁) (争点) ブリッジ補綴治療についての歯科医師の債務不履行の有無 (事案) 患者X(昭和27年生まれの主婦)は、F歯科医院で昭和47年に受けた被冠型ブリッジ(架工義歯)の前装歯2本が変色したため、昭和58年になってY歯科医師の経営するY...

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