医療判決紹介:最新記事

2006年の記事一覧

2006年12月18日
選択の視点【No.84、85】

今回は、薬剤投与によって患者がショック状態になった事案に関する判決を2件ご紹介します。 どちらの判決も、医師が患者のアレルギー体質を認識、あるいは認識しえた点を重視しているといえます。 No.84の判決は、腰痛等の治療のため、ビタノイリン、ノイロトロピンを投与したところ、患者がショック状態になり心臓...

2006年12月18日
No.85「インフルエンザの症状を訴えて医師の診察を受けた患者に対し、静脈注射をしたところ、患者がショック状態となって死亡。医師の過失を認め損害賠償責任を認めた判決」

大阪地方裁判所 平成14年1月16日判決(判例時報1797号94頁) (争点) 患者に対し本件注射をしたことについて、医師に過失があるか 医師が、本件ショック症状発見後、患者に対して施した処置について、医師に過失があるといえるか、適切な処置を施していた場合、患者の死は避けられたか 損害額 (事案) ...

2006年12月18日
No.84「腰痛捻挫等の症状のある患者に対し治療のため投薬がなされたところ、ショックを起こして心臓停止に至り、右股関節運動障害の後遺症を負う。投薬をした医師に損害賠償責任を認めた判決」

大阪地方裁判所 平成8年1月29日判決(判例タイムズ910号180頁) (争点) 医師に注意義務違反があるか 後遺障害と医師の注意義務違反との因果関係 損害 (事案) X(昭和18年生まれの男性・A鉄工株式会社の工場長取締役)は平成4年2月27日、会社工場での作業中、腰部を捻り、腰痛による歩行困難に...

2006年11月16日
選択の視点【No.82、83】

今回はチーム医療において医療過誤が生じた場合に、複数の医療関係者の中の誰がどのように刑事責任を負うかが問題となった事案を2件ご紹介します。 両方の判決とも、チーム医療における医師の立場、役割についてのものです。 No.82の判決は、動脈管開存症患者(当時2歳半)の動脈管を大動脈との分岐点で切断する手...

2006年11月16日
No.83「主治医が抗がん剤を過剰投与し患者が死亡。私立大学附属病院の耳鼻咽喉科科長兼教授にも業務上過失致死罪の成立を認めた最高裁判決」

最高裁判所第一小法廷 平成17年11月15日決定(判例時報1916号154頁) (争点) 耳鼻咽喉科科長であり、患者に対する治療方針等の最終的な決定権者であるA医師に、主治医Bの治療計画の適否を具体的に検討し、誤りがあれば直ちにこれを是正すべき注意義務に違反する過失があるか 抗がん剤の使用により、患...

2006年11月16日
No.82「看護師による電気メス器ケーブルの誤接続による熱傷から患者の右下腿部切断。執刀医師の刑事責任を否定した高裁判決」

札幌高等裁判所 昭和51年3月18日判決(判例時報820号36頁) (争点) A医師のケーブル誤接続の可能性に対する認識ないしは認識の可能性の有無 A医師のケーブル誤接続による傷害事故発生に対する予見可能性の程度 手術開始直前のケーブル接続について、執刀医であるA医師の介助看護師に対する信頼の当否 ...

2006年10月18日
選択の視点【No.80、81】

今回は、内視鏡手術に関する判決を2件ご紹介します。 NO.80の判決は、重い後遺症を負った乳児だけでなく、その両親についても精神的損害の賠償、いわゆる慰謝料の請求を認めています。 民法第711条は「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合におい...

2006年10月18日
No.81「内視鏡を使用した手術において右手総掌側指神経を損傷し複合性局所疼痛症候群(CRPS)タイプIIを発症させた場合に、医師に手技上の過失などがあったとして、病院の損害賠償責任が認められた判決」

さいたま地方裁判所川越支部 平成16年8月26日判決(判例時報1888号109頁) (争点) 医師に、説明義務違反があるか 医師に、本件手術における手技上の過失があるか 医師に、本件手術後、CRPSタイプIIの発症を看過し、適切な治療を行わなかった過失があるか 損害 (事案) X(昭和31年生まれの...

2006年10月18日
No.80「生後約9ヶ月の男児に対する内視鏡手術の際、灌流液が体内に漏れ、急性腎不全から重度の後遺障害に。国立病院医師の過失を認め、国及び医師らに損害賠償責任を認めた判決」

神戸地方裁判所 平成10年3月23日判決(判例時報1676号89頁) (争点) 手術を執刀した医師に、手術に際して灌流液の溢流を監視すべき注意義務を怠った過失が認められるか 麻酔医であった研修医に、手術に際して灌流液の溢流を監視すべき注意義務を怠った過失が認められるか 医師らの過失と後遺障害との間に...

2006年9月12日
選択の視点【No.78、79】

今回は、退院後の患者の容態悪化について、退院時の医師の説明が不十分であったとして過失が認定された判決を2件ご紹介します。いずれも、原審と上訴審とで判断が異なり、医師側が逆転敗訴した事案です。 医師の患者に対する説明は 1患者の有効な承諾を得るための説明  2療養方法の指示・指導としての説明  3転医...

2006年9月12日
No.79「国立病院で手術・退院後に薬剤の副作用で患者が死亡。退院時の情報提供義務違反を認め、国が逆転敗訴の高裁判決」

高松高等裁判所平成8年2月27日判決(判例時報1591号44頁) (争点) 医師に、副作用のある薬剤を投与する場合の注意義務違反があったか否か (事案) 患者H(女性)は、昭和63年9月26日、国立病院であるY医大病院脳神経外科を受診し、その後の検査から右前頭部に髄膜腫が認められたことにより、摘出手...

2006年9月12日
No.78「新生児が退院後核黄疸に罹患し後遺症。医師の過失を否定した高裁判決を最高裁判所が破棄。産婦人科医に退院時の説明・指導義務違反を認める」

最高裁判所平成7年5月30日第三小法廷判決(判例時報1533号78頁) (争点) 新生児退院時における産婦人科医の注意義務違反の有無 (事案) 昭和48年9月21日に、母親Mは患者X(女児)を未熟児の状態で出産した。 Mは、長男・長女も産婦人科医Yの経営する医院で順次出産したが、この二人のどちらにも...

2006年8月16日
選択の視点【No.76、77】

今回は、市立病院の看護師の過失に関連する判決を2件ご紹介します。 なお、判決文中、「看護婦」と表記されている部分は「看護師」に修正しております。 No.77は看護師による点滴(静脈注射)の事案です。 看護師による静脈注射について、従前は、看護師の業務の範囲を超えるものであるとの行政解釈がありました(...

2006年8月16日
No.77「市立病院看護師の点滴後、泌尿器科受診患者に右橈骨神経不全麻痺が発生。市に損害賠償を命ずる判決」

名古屋地方裁判所平成14年3月15日判決(判例時報1796号133頁) (争点) 本件注射と右橈骨神経不全麻痺との因果関係 市(Y病院)の責任原因(過失) 損害額 (事案) 患者Xは、昭和25年5月23日生まれの男性で、腎結石のため、平成2年末ころから、Y市が開設するY市民病院(以下「Y病院」という...

2006年8月16日
No.76「人工呼吸器のアラームのスイッチを市立病院の看護師が入れ忘れ、入院中の4歳男児が呼吸不全で死亡。市に損害賠償請求を命ずる判決」

神戸地方裁判所平成5年12月24日判決(判例時報1521号104頁) (争点) 本件事故で患者Aが死亡したことによる慰謝料額はいくらか (事案) 患者A(死亡当時4歳の男児)は、昭和63年6月14日に出生したが、生後8か月頃になってアイセル病(ムコリピドーシスII型)という先天性代謝異常の障害がある...

2006年7月21日
選択の視点【No.74、75】

今回は、眼科に関連する判決を2件ご紹介します。 No.74の判決では、大学病院における眼科と内科との間で、診療依頼状や返信を患者に持参させて他科を受診させるという方法で検査結果の伝達を行っており、眼科の診断結果が内科医師に伝わるまでに3ヶ月近く経過したことにつき、眼科と内科双方の医師の義務違反が指摘...

2006年7月21日
No.75「コンタクトレンズの購入・使用後、左眼に角膜混濁・矯正視力低下の後遺障害。販売、処方に関し、販売会社や眼科医師の過失が認められた判決」

大阪地方裁判所堺支部平成14年7月10日判決(判例タイムズ1145号177頁) (争点) コンタクトレンズの販売、処方に際して、医師や販売会社に告知、説明義務違反があったか 医師に治療義務違反があったか (事案) 患者K(当時22歳の女性)は、平成11年4月8日、A株式会社が経営するコンタクトレンズ...

2006年7月21日
No.74「視野異常が認められた患者について下垂体腫瘍の発見が遅れたとして大学病院及び内科担当医師の過失が認められた判決」

東京地方裁判所平成14年4月8日判決(判例タイムズ1148号250頁)) (争点) 下垂体腫瘍の発見が遅れたことにつき、内科担当医師に過失があったか (事案) 患者X(女性・年齢不明)は、平成11年1月頃から、視力低下を感じはじめ、3月には近所の開業医や都立病院の眼科を受診したが、視野異常は認められ...

2006年6月12日
選択の視点【No.72、73】

今回は、患者の容態が急変した事案についての判決を2件ご紹介します。 「因果関係」や「過失」を考える上で参考になろうかと思います。 No.72は、損害賠償請求訴訟における因果関係の立証の程度についての指導的役割を果たしている判決です。そして、この最高裁判決で肯定された因果関係を前提に、差し戻しされた高...

2006年6月12日
No.73「麻酔剤でのうがいからショック症状に陥り、健忘症候群の後遺症。患者の特異体質によるとして、医師の過失を否定した判決」

佐賀地方裁判所判決 昭和60年7月10日判決(判例時報1187号114頁) (争点) キシロカイン希釈水溶液でのうがいとショック及び後遺症との因果関係 医師の過失の有無 (事案) 患者A(当時40歳の女性。公務員)は、昭和51年7月7日Y医師経営の病院に初来院し、咽頭痛を訴えた。Y医師は、Aに既往症...

2006年6月12日
No.72「3歳男児がルンバール施術後、嘔吐、けいれんの発作等を起こし、知能障害・運動障害等の後遺症が残った。ルンバール施術と男児の発作及びその後の病変との因果関係を認める最高裁判決

最高裁判所第二小法廷 昭和50年10月24日判決(判例時報792号3頁) (争点) 訴訟上の因果関係の立証の程度 本件ルンバールと患者の発作及びその後の病変との因果関係 (事案) 患者A(当時3才の男児。もともと脆弱な血管の持主で入院当初より出血性傾向が認められた)は、化膿性髄膜炎のため昭和30年9...

2006年5月24日
選択の視点【No.70、71】

今回は、患者の自殺が関連する判決を2件ご紹介します。 患者が自殺したことにより、損害が拡大あるいは発生した場合に、過失相殺の法理を類推適用して、損害賠償額を減額するという法律構成を、両判決ともとっています。ただし、類推適用する条文について、No.70の判決は、不法行為に関する民法772条2項「被害者...

2006年5月24日
No.71「精神病院入院中の患者が病室で自殺。病院側に損害賠償を命ずる判決」

福岡地方裁判所小倉支部 平成11年11月2日判決(判例タイムズ1069号232頁) (争点) 患者の自殺は予見可能であったか 夜間の巡回体制を整えること等によって、患者の自殺は回避可能であったか 損害 過失相殺 (事案) 患者A(死亡当時52際の男性)は、平成8年10月3日、アルコール依存症、精神分...

2006年5月24日
No.70「医師が手術の際、静脈と動脈を見誤って動脈切断。右下肢の切断を余儀なくされた患者が悲観して自殺。病院側に損害賠償責任を認める判決」No.70「医師が手術の際、静脈と動脈を見誤って動脈切断。右下肢の切断を余儀なくされた患者が悲観して自殺。病院側に損害賠償責任を認める判決」

高松地方裁判所観音寺支部 平成16年2月26日判決(判例時報1869号71頁) (争点) 医師の過失 医師の過失と患者の死亡との因果関係 損害賠償額 (事案) 患者(昭和23年生まれの女性)Aは、平成11年6月25日、Y医師が経営するYクリニックで両足の冷えについて診察を受け、その際、Y医師は、両下...

2006年4月14日
選択の視点【No.68、69】

今回は、末期医療・延命治療における医師の行為が問題となった判決を2件ご紹介します。 医療技術が発展した現代においては、治癒の見込みのない患者に対する延命医療の限度が問題とされ、患者の自己決定権・生命の質の観点から、「安楽死」「尊厳死」についても様々な議論が行われています。「わかりやすい医療裁判所処方...

2006年4月14日
No.69「難病のALS患者が痴呆の症状を伴っており、人工呼吸器装着に関する患者や家族の意思が明らかでなかった場合には、医師が患者に人工呼吸器を装着すべき義務を負わないとした地裁判決」

仙台地方裁判所平成12年9月26日判決(訟務月報48巻6号1403頁) (争点) 医師らに人工呼吸器装着義務違反があるか 医師らに説明義務及び意思確認義務違反があるか 患者の生命の危険が差し迫った時期における医師らの所為に過失があるか (事案) 患者C(昭和7年生まれの女性)は、平成4年9月末ころ「...

2006年4月14日
No.68「医師が末期患者に薬物を注射して患者が死亡。医師による積極的安楽死として許される要件を満たしていないとして、医師に殺人罪を適用。懲役2年、執行猶予2年に処した判決」

横浜地方裁判所 平成7年3月28日判決(判例時報1530号28頁) (争点) 安楽死の要件 本件医師の具体的行為の評価 量刑の理由 (事案) A医師(昭和59年医師免許取得)は、T大学医学部助手として、同大学医学部内科学四教室に所属していた。出向を終えた平成3年4月1日付けで、T大学附属病院での勤務...

2006年3月14日
選択の視点【No.66、67】

今回は、輸血に関する判決を2件ご紹介します。 どちらも、輸血を伴った手術について、手術自体には問題がなかったにもかからわず訴訟で病院側の責任が認められました。 No.66は、宗教上の信念から、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している患者に対して、輸血を行う可能性があることを説明しないま...

2006年3月14日
No.67「心臓手術の際、放射線照射なしの輸血が行われ、患者が移植片対宿主病(GVHD)を発症して死亡。病院の責任を認め、輸血用血液を供給した日赤の責任を否定した判決」

横浜地方裁判所 平成12年11月17日判決(判例時報1749号70頁) (争点) 日本赤十字社及び病院に輸血用血液製剤に放射線を照射すべき義務が有るか 日本赤十字社に輸血後GVHDに関する警告表示義務が有るか (事案) 患者A(昭和3年生まれの男性)は、平成5年12月4日、S病院で3カ所の冠動脈バイ...

2006年3月14日
No.66「宗教上の信念から輸血拒否の意思を表明していた患者の手術で、輸血を実施。病院の損害賠償義務を認めた高裁判決を、最高裁判所も維持」

最高裁判所 平成12年2月29日判決(判例時報1710号97頁) (争点) 宗教上の信念から輸血を伴う治療行為を拒否するとの明確な意思を有している患者に対して、「手術の際に輸血以外には救命手段がない事態に至ったときは、患者及びその家族の諾否にかかわらず輸血する」という方針を採用していた病院が、その説...

2006年2月15日
選択の視点【No.64、65】

今回は、説明義務の違反が問題となった判決を2件ご紹介します。 医師は患者に対して症状、治療の方法・内容・危険性・代替的治療法の有無等を説明し、患者が治療法を選択するのに必要な情報を提供したうえで、当該治療について患者の同意を得る義務を負っています。 No.64の判決は、患者への説明及び患者の同意なし...

2006年2月15日
No.65「国立病院でAVM(脳動脈奇形)の全摘出手術を受けた患者に重篤な後遺障害が生じその後死亡。医師の治療法の選択には過失は無かったが、手術の危険性についての説明義務違反があったとして国に慰謝料の支払いを命じた地裁判決を高裁も維持」

東京高等裁判所 平成11年5月31日判決(判例時報1733号37頁) (争点) KのAVM治療のため、本件手術を選択したことにつき医師らに過失があったか 本件手術に際してKやXらに対して手術の必要性、危険性について十分な説明がなされていたか (事案) 患者Kは、昭和48年(満5歳)ころから左半身麻痺...

2006年2月15日
No.64「帝王切開後、患者の同意なく子宮と右卵巣を摘出。患者の夫である医師が子宮摘出に同意をした場合でも、大学病院の過失を認めた地裁判決」

東京地方裁判所 平成13年3月21日判決(判例時報1770号109頁) (争点) 説明義務違反の有無 (事案) 患者XはY大学病院形成外科K医師(教授)の妻(40歳)で、2人の間には長男がいた。Xは平成6年1月Y大学病院産婦人科を受診し、妊娠と診断され、以後T医師の検診を受けていた。 8月22日、X...

2006年1月18日
選択の視点【No.62、63】

今回は、いわゆる美容整形手術に関する判決を2件ご紹介します。 この分野は、他の医療行為に比べて手術の必要性、緊急性が少なく、審美的観点から患者が主観的に満足することが主な目的となるという特徴があります。そのため、手術の結果に患者が納得しなかった場合に、医師の説明義務違反が問われることがあり、裁判所も...

2006年1月18日
No.63「患者が当初要望していなかった左下顎骨の切除を勧めるにあたり、医師に説明義務違反があったとして、損害賠償を認めた判決」

東京地方裁判所 平成13年7月26日判決(判例タイムズ1139号219頁) (争点) 下顎骨の切除手術について説明義務違反があったか (事案) Xは、当時54歳で社交ダンス用の衣装などの注文製作業や社交ダンスの講師をして いた女性であるが、頬の骨がやや出ているように思ったため、平成5年11月1日、Y...

2006年1月18日
No.62「シミ治療につき錯誤無効を理由に患者には診療代金の支払義務が無いと認定。更に医師の説明義務違反による医療法人の損害賠償責任を認めた判決」

横浜地方裁判所 平成15年9月19日判決(判例時報1858号94頁) (争点) 患者のシミが肝斑か否か 診療契約が患者の錯誤により無効となるか 医師に説明義務違反があるか (事案) 患者X(診療当時42歳の女性)は額と両頬のシミを気にしていたところ、Y医療法人が経営するSクリニックを広告で知り、平成...

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