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レジリエント・ヘルスケア

今回は、大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部部長であり、病院教授である中島和江先生が翻訳した「レジリエント・ヘルスケア-複雑適応システムを制御する-」をご紹介します。

本書は、レジリエンス・エンジニアリングの概念と手法をヘルスケアの分野の課題に応用する「レジリエント・ヘルスケア」の全体像を描いた初めてのものだそうです。

一般にレジリエンスは、逆境にもかかわらずシステムがうまく動き、実存する脅威にもかかわらずシステムが持続している特性という良い側面から紹介されることが多いかもしれません。しかし本書の中では、レジリエンスの使いすぎや誤った使い方についても言及されています。

レジリエンス・エンジニアリングについて既にご存知の方も、本書をご覧いただくと、今までの知識を整理しながら、さらに一歩進んだ理解を得ることができると思います。

(「表紙」より)

医療は時々刻々と変化する複雑適応システムであり、本質的に脆弱である。このようなシステムにおいては、人々の柔軟性のある対応こそがシステムをうまく機能させる源だとされている。このような柔軟性はレジリエンスと呼ばれ、諸外国の研究者は日本語の「禅」という漢字をあてている。言い得て妙といえよう。

これまで医療安全向上には「失敗の原因を特定し、それに対策をほどこすことによって失敗をなくす」というアプローチがとられてきた。失敗には特定の原因があると考えられてきたからだ。しかし、この伝統的なアプローチが成果をあげているとは言い難い。この閉塞感の打破が期待されるのがレジリエンス・エンジニアリングである。成功も失敗もその起源は同じであり「うまくいっていることに着目し、事故の発生を待つことなく先行的に対応し、うまくいくことを増やす」というアプローチがその鍵となる。

本書ではこのアプローチを医療に応用するための理論と手法を解説する。

レジリエント・ヘルスケア-複雑適応システムを制御する-

レジリエント・ヘルスケア-複雑適応システムを制御する-

編著者:
エリック・ホルナゲル/ジェフリー・ブレイスウェイト/ロバート・ウィアーズ
訳者:
中島和江
単行本:
315ページ
発行所:
大阪大学出版会
ISBN:
978-4-87259-535-2
定価:
本体3,500円+税

目次

序章
医療にレジリエンスが必要な理由
第1部
複数利害関係者と多重システムの複合体としてのヘルスケア
第1章
ヘルスケアをレジリエントにするために:Safety-ⅠからSafety-Ⅱへ
第2章
レジリエンス、第2 の物語、および患者安全の進歩
第3章
ヘルスケアにおけるレジリエンスと安全:結ばれるか決別か
第4章
Safety-Ⅰに対する社会文化的批判からSafety-Ⅱが学ぶこと
第5章
「成功に注目すること」対「失敗の側に注目すること」:質は安全と同じか? 安全は質のことか?
第6章
複雑適応システムとしてのヘルスケア
第2部
レジリエンスが個人、グループ、組織の中で占める位置
第7章
集中治療室におけるレジリエンス:ジュネーブ大学病院の事例
第8章
社会技術環境における熟達化、柔軟性、レジリエンスの調査:ロボット手術に関するケーススタディ
第9章
規制とヘルスケアのレジリエンスを調和させる
第10章
組織の再編とレジリエントな組織:ヘルスケアにおける検討
第11章
レジリエンスへの依存:過ぎたるは及ばざるがごとし?
第12章
思慮に満ちた組織化とレジリエント・ヘルスケア
第3部
レジリエント・ヘルスケアの特性と実践例
第13章
レジリエンスと成功を切り離して考える
第14章
患者安全における適応行動と標準化
第15章
患者のエンパワーメント促進とヘルスケアシステムのレジリエンス向上のためのPROMsの活用
第16章
レジリエント・ヘルスケア
第17章
現場でのSafety-Ⅱ思考:日々の活動を支援する「ジャストインタイム」情報
第18章
ジョーンズ夫人の呼吸困難:レジリエンスの枠組みで救えないか?
エピローグ
ヘルスケアをレジリエントにする方法
カテゴリ: 2016年1月 7日
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